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ベンチャーと大企業、東京と徳島、金融と教育と交通、地方創生を仕事にする選択肢

  • 株式会社電脳交通
  • 2019.08.30
  • 徳島県徳島市他

「大企業で定年まで勤めあげる」、そんな経済的な安定性が“豊かさ”とされていた時代から、若者が望む“豊かさ”や“ライフスタイル”は変化してきている。
今四国で最も勢いのあるベンチャー企業のひとつである株式会社電脳交通でコーポレート室長を務める勢井海人(せい かいと)さんは、「地方創生」「地域貢献」を軸にキャリアを積み重ねている。徳島の大企業、東京の教育系ベンチャー企業を経て、徳島で最先端の交通系ITベンチャー企業で仕事をする中で、キャリア形成の軸である「地方創生」「地域貢献」をどのように形にしているのか。勢井さんに話を伺った。

 

――今までのキャリア

勢井:電脳交通が3社目になります。1社目の銀行で5年働いた後、中高生向けのプログラミング教育を行う東京のライフイズテックという会社に移りました。ワークショップの設計や大阪支社の立ち上げを担った後、元々やりたかった「地方×教育」、新しい教育を地方に広げるための事業に取り組みました。東京や大阪で展開していたプログラムを、地方の行政と連携しながら展開し、全国で数千人程に新しい教育を届けることができました。在籍4年中3年程は「地方×教育」で走り続けました。その過程で、地方創生の中でも“地元”創生にフォーカスしたいという想いが徐々に芽生えてきて、地元の徳島に戻ろうと考えていたタイミングで、電脳交通の社長からオファーをもらい入社しました。

 

――「地域」という軸が自身の中に芽生えた背景

勢井:大学で取り組んだ滋賀の名産品を発信するプロジェクトの影響が大きかったと思います。地域のおばちゃんが、「実はこういうものがあるんだけど、あまり知られていないんだよね」と話すものが、外部の人間からするととても魅力的で、目線を変えれば価値が全く変わるということに気づき、地域に軸足を置いた方がおもしろいのではと感じるきっかけになりました。

 

(お話を伺った勢井さん)

(お話を伺った勢井さん)

 

――最初のキャリアで銀行を選んだ理由、銀行での仕事

勢井:地元の徳島で働くというのは決めていたので、地元の地域経済を知ることができるという点で、銀行か行政かと考えていましたね。私自身「銀行員には向いていない」と感じていて、向いていない組織に入ったときに自分がどうなるか、違う自分が見えるかも、という興味がありチャレンジしました。
社会人3年目のときに安倍内閣が立ち上がり「地方創生」を掲げたタイミングで、「地方創生についてどう思うか」を地域の人にインタビューして回りました。「あまり期待していない、むしろ迷惑」といった声も多く聞かれ、そこで「これは中央の考え方なんだ、だから地方創生という言葉なんだ」と気づきました。まず、“地方”という言葉は地方では使いません。どちらかというと“地元”創生です。また、徳島を盛り上げるためのイベントでも徳島にお金が落ちていない状況を見て、「本当の地方創生って何だろう」という想いを持ちながら働いていました。当時は景気も悪く、本来仕事は未来を創るためにあるのに、その未来を創る仕事ができないことにしんどさを感じていました。では、その“未来”って何だろうと考えると、やはり次の世代に何を残すかだと思い、出てきた答えが“教育”でした。アフター5でよくイベントを企画していて、そこで学生から「地方っておもしろくない」「地元って何もない」という声をよく聞いていました。「いや、探せばいっぱいあるし、つくれるよ」と思いましたが、従来の与えられた教育の中で子どもが自ら「つくる」機会がほとんどなく、そもそもそういう考えに至らなかったのではと感じました。10代で過ごす時間で一番大きいのは教育だ、そこにメスを入れない限り日本は変わらない、何かをつくり生み出す教育が必要だと感じていたときにライフイズテックに出会いました。

 

――ライフイズテックで取り組んだ「地方×教育」

勢井:ライフイズテックでは当時、サービスは都市部と海外向けだけで地方に展開されていなかったので、採用面接の時から「絶対に地域に残していくべき事業だから地方に広げたい」と話しました。ライフイズテックでは、当時人数も少なかったので、地方にルーツがある社員が少なく、教育に対する想いは強くてもそれを地方に向ける熱量のある人材が多くいませんでした。そこで、私自身が地方創生の目線を持ち込むことで力になれると考え、「結果が出たら事業化してほしい」と提案して、私が事業を始めました。何度も頓挫しましたが、結果的に新領域で事業化できるまで事業を成長させた結果を会社が認めてくれ、地方創生のチームができ、学校と企業向けしか無かったサービスに自治体向けの新しいものが加わりました。

 

――何かを生み出す教育を実現するための選択肢が、なぜベンチャー企業だったのか

勢井:大企業では個人として社会にインパクトを残せていないと感じ、小さな組織で何かひとつでも成し遂げた方がやりたいことが実現できてスキルも上がると考えました。あと、地方の大企業にいると同窓会で「勝ち組だね」と言われることにすごく違和感がありました。気づかない間に“ゆでガエル”状態になる危険性も感じていました。徳島から外に出るときは親や友人、先輩といったみんなに反対されました。けれど外に出て、ある程度結果を出すと、手のひらを返したかのように「ベンチャーに就職ってどう」「俺も辞めたいんだけど」と地元で悩む人から相談がきました。そういう突破口というか、流れを変えてみたいという想いはぼんやりとありましたね。

 

(ライフイズテック時代の勢井さん)

(ライフイズテック時代の勢井さん)

 

――地方創生から地元創生へ、他の地域に事業を広げるのではなく徳島に戻った理由

勢井:東京から地方にサービスを提供していると、結局お金は東京に流れて、しかも自分も東京にいることに矛盾を感じ始めました。その矛盾の中で「地方創生」と叫んでいたので、一度立ち止まって、徳島に帰って貢献した方が良いと思ったのが理由です。あとこれは持論ですが、地方創生に必要なものは4つあると考えています。それは、教育、金融・経済、メディア・情報発信、最後に交通・人の移動です。この4つが成り立たないと地域は活性化しないと思っています。銀行で経済に触れ、ライフイズテックで教育に触れ、電脳交通で人の移動に触れるという視点もあったと思います。

 

――いくつかの選択肢がある中で、電脳交通に入社した理由

勢井:前述のタイミングよくオファーをもらったことや、「交通・人の移動」に関心があったことが主な入社の理由となります。ベンチャーにこだわったのは、大企業とベンチャーを経験したときに、自分らしくいられたのがベンチャーだったからです。自分らしさは環境で変わると思っていて、大企業がばっちり合う人ももちろんいると思います。私はベンチャーでの働き方の方が性に合った感じです。
ベンチャーは世の中に前例をつくるものだと思っているので、特にそれを地元の次の世代に見てほしいという想いがありました。もちろん地域交通を盛り上げることも大事だと思っていますが、「地方ベンチャーとして何をするか」もすごく大事だと思っています。例えば、徳島大学の学生に当社の社長が講義をしてアクションを起こすきっかけをつくるとか、自分たちの時間を事業以外に使えるとしたら地域貢献に使っていきたいと思っていて、ベンチャーこそそれを実現しやすいと考えました。つくっていく過程を見せ、手触り感のあるリアルな話ができるので。ゼロイチで小さなものでもつくっているかどうかはすごく大事だと思っています。ベンチャーのようにひとつずつ新しいものを生み出して、みんなで色々な可能性に挑戦していく感覚が大切で、その感覚を地元に根付かせたいと思っています。それができるのは大企業よりベンチャーだと考えています。

 

――電脳交通の事業内容、業務内容

勢井:事業に関して言うと大きく3つです。1つ目はタクシー会社に対して配車システムを提供していくこと、2つ目は配車システムを持った上でコールセンターの配車業務の委託を受けること、3つ目は更にシステムを使って新しい収益の柱となるメディア事業を立ち上げることです。それらを通して、「地域交通のアップデート」に取り組んでいます。今の世の中、人が減って乗り物も減って、そうなると人が移動できなくなり、経済が徐々に成り立たなくなります。ネット経済だけになると、リアル経済が成り立たないので、そのリアル経済の血流を、交通を通じてどう回していくか、そのハブになる役割が「電脳交通」だと考えています。
個人の業務で言うと、法人営業部長として営業をまとめるところから始まり、営業本部長として更に大きな枠組みに取り組み、今はコーポレート室長として社内を整えていく役割を担っています。あとは、NTTドコモ様やJR西日本様と実証事業を行うときにプロジェクトを回したり、今後増加が見込まれる自治体からのオファーへの対応等ですね。

 

(タクシー車内に搭載するクラウド型タクシー配車システム)

(タクシー車内に搭載するクラウド型タクシー配車システム)

 

(クラウド型タクシー配車システムを用いた配車委託業務)

(クラウド型タクシー配車システムを用いた配車委託業務)

 

――大企業とベンチャー企業の違い

勢井:大企業とベンチャー企業では、回せる仕事やプロジェクトやそれらによるインパクトの大きさが全然違うと思います。しかし、大企業では自分は組織の大多数の内の1人なので個人としての貢献度を感じにくいところはあると思います。プライドを捨てた瞬間に周りに流されて、結局歯車のひとつみたいな感じになってしまうのがしんどいところかなと。ベンチャーはその逆です。残せるインパクトはベンチャー単体だと決して大きくはありませんが、個人として前例をつくり、何かを生み出すことができ、力をつけるには絶好の場だと思います。今、100年企業が次の100年をつくるためにどういう人を採用するか迷っていると言われています。そのときに強いのは何かを生み出す力を持つ人だと思いますし、ベンチャー企業はそういう力をつけられる環境だと思いますね。

 

――ライフイズテックと電脳交通。東京からの地方創生と、地域での地元創生の違い

勢井:それぞれバランスよく必要だと思います。徳島に戻って、東京からの地方創生は、東京の情報や人を地方に送れるので意義は大きいと思いました。文化が違うし、スピードも違うので、東京のベンチャー企業が地方の心を持って地方に新しいものを持ち込む方が早いと思います。一方、地方のベンチャー企業の地元創生は、地元に深く入り込むことができます。東京の企業と言った瞬間に、「東京のお偉いさん」「シティボーイ」みたいな感じで見られがちですが、地方の企業と言うと仲間意識を持ってもらえて地域に入りやすいですね」

 

――教育と交通と経済、それぞれの分野の地域に対する貢献の違い

勢井:地方を一気に盛り上げる事業というのは存在しないと思いますし、だからこそ地方創生は一つ一つの取組み積み上げていかなければなりません。教育に携わってみて、いかに手触り感を持って小さいところに届けられるかがすごく大事だと思いますね。例えば、中高生を相手にしているときに「地方創生しよう」なんて一切思っていなくて、「この子をどう豊かにしようか」と考えています。タクシーも同じで、事業が地方創生につながるかよりも、むしろ目の前の事業者の抱える問題をいかに解決するかを考えています。それが結果的にどう地方創生につながるかだと考えています。地方創生に取り組みたいという人は、更にその先のどういう人に何を届けたいのかが、すごく大事だと思います。
また、教育、交通、経済それぞれで貢献の対象や時間軸が違いますね。まず、教育に関しては個人が対象になりますが、経済と交通はより広い地域社会が対象になります。タクシーひとつを最新の技術でアップデートすることによって個人よりも周りを含めてより良くするという考えです。また、教育は投資効果が表れるまでに時間を要することはある程度許容されますが、交通や経済は何十年も待てない目下の課題です。時間をかけて地方創生するのか、すぐに効果が見える地方創生をするのかは取り組む分野によると思いますね。あと、地方創生ができない業界はひとつもありません。ありとあらゆる分野において考え方ひとつで色々できますし、何を通して地方創生をしたいかが大事だと思いますね。
一方で、地方創生の種を仕事の中で見つけるのは実は難しいと思います。人は誰しも経験した世界のことしか知らないので、例えば銀行の人が地方創生をやりたいと思っても銀行でできることしか思い浮かばないのではないでしょうか。転職を迷う人も今の仕事の延長で次の仕事を考えがちですけど、それこそ土日に家族と過ごしている時間や友達と過ごしている時間に、何となくこれが好きだとかワクワクするものに、アンテナを張った方がおもしろいと思います。

 

――ベンチャーでキャリアを積もうとしている人は何を大切にしないといけないのか

勢井:会社が無くても個人としてどういう生き方ができるかが大事だと思います。毎日忙しくて大変なことが多い中で、自分を支えるのは、「自分でつくる」「自分の足で立つためにスキルや武器を持つ」ことが大切だと思います。結局、唯一無二の答えはありませんから、自分がどうしたいかがすごく重要だと思いますね。大企業にいても本来そうあるべきですが、大企業は自分がしなくても何とか回っていくものです。一方、ベンチャー企業は自分でやろうという世界なので、自分の足でどう進んでいくかが大事です。できるかできないかは別にして、それぐらいのつもりでいた方が、ギャップは少ないと思います。特に大企業からベンチャーにチャレンジしようとしている人は、会社の諸々を整えるのは自分だという感覚がないとしんどいと思います。

 

――将来像

勢井:地方創生の観点を持ちつつ、どう海外とつながるかを考えています。日本は課題先進国で、日本で解決された課題の中には海外でも解決できるものが多くあります。それをどう輸出し、外貨を獲得するかが次の地方創生の方法だと思います。ひとつ地方創生モデルをつくって、日本の地方創生が世界標準になるということが大事であり、だからこそ色々な人と関わっていきたいと思っています。あとは大企業にもっと地方を見るようアラートを鳴らすというか、地方での経験を地方以外の人たちにインストールする動きもしていきたいと考えています。

 

 

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制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議

 

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