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たったひとりのため、特別な1日のため、一皿から始まる風景を届けるケータリング

  • 柳田 晃一郎さん|sara366
  • 2017.03.06
  • 香川県高松市他

「あなたの大切な記念日はいつですか。その日は何をして過ごしますか」

自分の記念日だけではない。友人の、恋人の、家族の、それぞれの記念日もまた大切な1日だ。記念日の過ごし方の定番といえば、おしゃれなレストランでおいしいご飯。特別な1日を楽しむために、良質な食事と空間とサービスは不可欠な要素だ。

柳田晃一郎さんは「sara366」という屋号を掲げ、

「365日+特別な1日を提案する」
「一皿から始まる風景を届ける」

をテーマに、オーダーメイドのケータリングを展開している。いつでも、どこでも、誰とでも、ドリンクとフードをオーダーメイドで提案する。たったひとりのためでも構わない。場所も、自宅から、瀬戸内海に浮かぶビーチ、高台のみかん畑に至るまで、どこでも構わない。ゲストの望みに応え尽くす料理や飲み物でのもてなしを徹底的に考え、届ける。

 

(地元の食材を使ったオリジナルのケータリング)

(地元の食材を使ったオリジナルのケータリング)

 

柳田さんは長野県の生まれ育ち。山に囲まれて育ったためか、漠然と海に対する憧れがあり、大学進学では千葉の外房に。卒業後は、「半分はおもてなしを学びに、半分はノリで」と、360度を海に囲まれた島に憧れ、小豆島の旅館で働き始める。香川に地縁はまったくなかった。

「日本のおもてなしを学びたいと思って就職したので、接客の仕事を希望していた。しかし、人手が足りず、接客と厨房を半々で任されることになった。ただ、ここで料理長と過ごした時間が本当に良い経験になった。表面的なサービスのあり方だけでなく、お客様に提供されている食事にどんなものが扱われ、どんな背景があるかの大切さを知ることができた」

旅館の仕事を通じ飲食の楽しさを知った柳田さんは、さらに島内のバーでお酒の知識を深める。1年ほど旅館とバーを行き来していたとき、知人から高松市内のアイリッシュパブで働かないかとの誘いを受ける。

「飲食のお店を見るときに、大切にしていることが3つある。1つ目は『本物を提供しているか』、2つ目は『利益をあげているか』、3つ目は『家族を大事にしているか』。この3つすべてが揃っている飲食のお店はあまり多くはない。誘われた店にはその3つが揃っていると感じた」

小豆島を離れ、高松に。働き始めて2年ほどはほとんど記憶がないという。目の前のことにただ必死に取り組み、気づくと店長職を任されるまでになっていた。少し仕事に余裕が出てきた頃、クラフトビールと料理のペアリングに興味を持つようになっていくうちに、お客様の要望に合わせてメニューをカスタマイズしたり、出張の依頼を受ける機会があった。

「これが思いのほか喜ばれることが多かった。提案したものが形になることはやりがいが大きいし、潜在的なニーズもあり、開拓してみたいと感じた」

この経験を機に、アイリッシュパブで働きながら、新しくオーダーメイドのケータリングのサービスを始める。同時に将来についても考えを巡らせた。

「いろいろ考えたが、やはり人の土俵ではなく自分の土俵で戦いたいという想いが強く、独立を決めた」

半年ほどのふたつの仕事の掛け持ち期間を経て、独立。「sara366」の屋号を掲げ、ドリンクとフードをオーダーメイドで提供する事業を2016年に本格的に稼動した。オーダーメイドのケータリングを届けるウェディングやプライベートケータリング、そしてライフワークとして美しいランドスケープを未来へつなげるプロジェクトを軸に展開している。
さらに詳しく話を聞くと、柳田さんのとことんゲストに寄り添うあたたかい姿勢が見えてきた。

「料理をどこかで専門的に学んだわけではなく、バックグラウンドがない。そのため、徹底的にゲストファースト、ゲストに寄り添い、そのときだけの特別なオーダーメイドを提案することを大切にしている。アレルギー対応だけでなく、個々の好みや、どんな記念なのか、誰に一番喜んでほしいか等々。
最近、お客様に『ストーリーテラーだね』という言葉をいただき、そうかもしれないなと思った。いつも『伝えたい気持ち』を持っている方のお手伝いをしたくなって。想いの根っこを一緒に探し求め、より喜んでいただくための提案を重ね、寄り添い、届ける。そのテーブルに広がるみんなの笑顔とその風景が好きだと気づいた。料理はひとつのツール。ゲストに寄り添うことを突き詰めると、究極は料理じゃないこともありうると思っている。人と人を結び付けるということもあるかもしれないし、とある風景かもしれないし、思い出の曲かもしれない。あらゆるものの組み合わせが考えられる。モノに加えてコトも、オーダーメイドできるようなったらおもしろい」

オーダーメイドでの料理と飲み物のペアリングをひとつの切り口にしつつ、寄り添う姿勢そのものこそが、実は最高の隠し味になっている。

 

(青空の下、女木島のビーチでテーブルを囲む)

(青空の下、女木島のビーチでテーブルを囲む)

 

そして、柳田さんの活動にはもうひとつのキーワードがある。

「『風景』というものをとても大切だと思っていて。田舎の美しい風景は、単体で成立しているのではなくて、人の営みの美しさ、毎日の積み重ねで生まれるもの。その営みにこそ、おいしいものがある。『sara366』が『365日+特別な1日を提案する』と謳っているのも、毎日の365日の営みも知ってほしい、特別な1日と同じくらいごく普通の毎日も大切にしてほしいという想いから。この日々の営みの積み重ねの中に、誰かの顔が浮かんで来て、『もうあの人の作るみかんができる頃だ』なんていいながら注文の電話をしてみたり、『またあの樹の下で寝っころがってみたいな』なんていいながら直接に足を運んでみたり。心を込めて作られていくモノを買うことで、その営みに守られた美しい風景を次の世代へ伝えていけるラストチャンスじゃないかと思っている」

「僕が世界で1番おいしいと思うのは、実家の長野で食べたおばあちゃんがつくる畑のトマト。口いっぱいに広がる酸味と甘み、そしてほのかな苦みや香り。表現できないおいしさがあった。きっと有名百貨店に勝る訳ではないけれど、食べた風景まで思い出すことができる。味覚は記憶の集合体。
昨年秋から『Landscape Restaurant』という風景と食をいっしょに味わうプロジェクトの企画を進めている。味わう人は、その食べものがつくられている場所と人に会いに行き、その美しい風景といっしょに同じテーブルで食べ物を味わうこと、これが最高のごちそうだと思う。自分はその風景まで伝えたい。風景がある場所まで出向き、現場で味わえるようにするために、身軽でいたくて店舗を持たないことにした。次のステップでは、子どもたちに、僕がおばあちゃんのトマトに感じたような味覚と風景を届け、伝えたいと考えている」

おいしいものがあるところには、必ず人の営みがあり、その営みは必ず美しい風景をつくる。逆に言えば、風景が美しいところには必ずおいしいものがある。

 

(柳田さんが好きだと語る瀬戸内海の風景=香川県高松市)

(柳田さんが好きだと語る瀬戸内海の風景=香川県高松市)

 

「あと、店舗を持っていないもうひとつの理由が『フレキシブルであること』を大切にしているから。飲食の提供をビジネスとして考えると、店舗があった方が絶対に良い。ただ、ゲストに寄り添い続け、常に自分の求める風景を追い続け、そこから手段を決めるという順番で考えると、いかにフレキシブルに生きられるかもひとつ大事にしている。変化することが前提と思ってキャリアプランを考えている」

徹底的にゲストファーストに、風景を届けることに、重きを置く。大切なのは自分ではなく、そこからの逆算だ。

最後に、柳田さんに人生におけるキーパーソンを尋ねたときに、このように考える背景が垣間見えた気がした。何とキーパーソンの名前が10人を軽く越えてどんどん挙げられる。

「ひとりひとりからその時々に自分へのプレゼントをもらっていた。ひとりじゃない。届けたい風景の中にみんなの顔が浮かぶ。だからこそ、届けるということに使命感があるし、ケータリング(Catering)という言葉を成す『Cater』には“届ける“という意味があるので不思議な縁を感じる」

「sara366」が大切にしていることは、

「365日+特別な1日を提案する」
「ひと皿から始まる風景を届ける」

「寄り添い」「届ける」ことには強い想いがある。

今後は、このサービスの届け先をさらに開拓して、その過程で、ゲストに寄り添い風景を描き、手段をどうするのかは料理や飲み物に限らず柔軟に考えるつもりだという。まずは寄り添うこと、まずは風景を届けること。手段はそこから……

「『柳に燕』という言葉が最近いいなぁと思っていて。ヤナギのように寄り添って、ツバメのように幸せを運ぶ。届けるのはその風景。こんな姿勢が理想だなと。名前も柳田ですし」

といいながら笑った。

特別な1日を過ごすときに大切なもの。おいしい料理や心地よい空間はもちろんだが、柳田さんの活動からもっと大切なものを感じられた。特別な1日に最も大切なもの、それは間違いなく、届ける想いだ。

 

 

柳田 晃一郎さん|sara366

山に囲まれた長野県上田市で育つ。海への憧れを捨てきれず瀬戸内へ。
女木島にて自身のウェディングパーティを セルフプロデュースしたことがきっかけとなり、ケータリングを始め、現在に至る。場所と時間を選ばず、全国を飛び回る。
今後は、5ヶ国語を操り、世界を渡る(予定)

 

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